《白球の詩》兄と目指した甲子園 夢託され4強進出 太田・糸井達輝外野手
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前橋育英との準決勝 9回表1死、左前打を放つ太田の糸井=上毛新聞敷島

 太田の糸井達輝は昨夏に同校の主将を務めていた兄、駿太さん(19)=新潟医療福祉大=とは顔つき以外、正反対だった。「性格も、投打も、なぜかスパイクの好みまで全て逆だった」。そんな似ても似つかない兄弟は12年間、ともに野球に向き合ってきた。

 2人とも小学校時代から白球を追い掛けた。一緒にグラウンドで砂にまみれる日々を送り、達輝は太田生品中3年時に軟式野球の県選抜に選出。甲子園出場経験を持つ県内外の強豪校から誘いもあったが、「始めた頃から兄と一緒に甲子園を目指す気持ちがあった」。進む先は決まっていた。

 周囲に頼りがちな弟に対し、「野球に私生活を持ち込んではいけない」と兄は先輩に徹してきた。練習中は言葉を多くは交わさず、学校の行き帰りも別々。だが、試合中は大事な場面でカバーし合った。姉の絵里菜さん(22)は「何か言うわけではないのに、かみ合う。互いに安心感があるようだ」と不思議がる。

 昨年5月、兄弟はこれまでの努力が消えてしまうような現実に直面した。新型コロナウイルス感染症の影響で高校野球の全国選手権と各地方大会の中止が発表。県独自大会は開催されたものの、目標にしてきた甲子園への道は途絶えた。

 「俺たちの分まで頑張ってほしい」。野球部のお別れ会で主将としてあいさつした駿太さんの言葉が胸に刺さったが、しっくりこなかった。「本当に行けるのかどうか、漠然とした目標だったから」。

 転機は今年4月。春季大会3回戦で前橋育英に七回コールド勝ちを収め、「チーム全員が『甲子園にいけるかもしれない』と自信に変わった瞬間だった」。駿太さんから託された夢を、努力を重ねれば実現できる気がした。

 迎えた夏の準決勝。相手は再び前橋育英。試合は序盤から得点を重ねられて苦しい展開が続いた。それでも笑顔は絶やさなかった。兄の背中を追って入った太田で県4強入りを果たし、「周りの評価を大きく変えられることができたから」。

 大学野球は兄と違うチームを目指す予定だ。「これまで頼ってきたので、そろそろ自立しなきゃなって。チームが別でも全国大会で戦える」。駿太さんも同じ思いを抱えている。野球を通じた兄弟の会話は終わらない。
(斎藤大希)

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