《白球の詩》兄の前で成長した姿 藤岡工・松本晃貴主将
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先発内田に駆け寄る藤岡工の松本主将=高崎城南

 「逆転を信じ最後まで必死に戦ってくれた」。試合後、目を真っ赤にしながらも主将として気丈にふるまい、仲間への感謝を述べた。だが、昨夏の大会をともに戦った兄、大空ひろたかさん(19)への思いを問われると、抑えていた感情が一気にあふれだした。「借りを返せなくて申し訳ない」。顔を手で覆った。

 固い決意で今大会に臨んでいた。自分や支えてくれた仲間のため、何より小学1年から励まし合ってきた1年上の兄の思いを晴らしたかった。ともに出場した昨夏の大会で初戦敗退を喫し、苦い思いを一緒に味わった。

 小学校時代、軟式野球チームのコーチをしていた父、勝利さん(39)の指導の下、切磋琢磨せっさたくまし合い、時には教え合った。「打つタイミングを遅らせてみたら」。自らも兄に助言した。高崎倉賀野中時代はソフトボール部でともにプレーし、全国・関東大会にも出場。高校は迷わず、兄が選んだ藤岡工野球部に進んだ。

 昨夏に兄が野球部を卒業。新体制になり、秋の大会まで持ち回りだった主将を買って出た。「今後、自分がやります」。「野球ノート」に思いを連ね、林陽一監督(37)に直訴した。チームをまとめる難しさを実感したと同時に、面白いと思った。

 兄から「俺よりも(晃貴の方が)センスは上。自分だけでなく、チームメートのことも考えてほしい」と励まされた。その思いに応えようと努力を続けた。チームは打撃力を磨き、春の大会で沼田を破った。

 主将として責任感を持ち、周囲へ配慮していたことが、自らのプレーにも好影響をもたらした。打撃面では、無理に引っ張っていた打球が逆方向にも飛ぶようになり、安定感が増した。林監督は「落ち着きがでて、視野が広がったのが大きい。良い影響を与えた」と分析する。

 迎えた最後の夏。攻守でチームを引っ張った。夏3連覇を狙う前橋育英を相手にチームは善戦。中盤まで互角の戦いを演じた。三回には自らのバットで先制点を奪い、チームに勢いをもたらした。捕手としても巧みなインサイドワーク。直球がさえた主戦の内田蒼馬をリードし三回まで相手打線を無安打に抑えた。

 だが終盤、王者の底力に圧倒され、終わってみれば7点差で敗れた。兄の雪辱を果たすことはできなかった。それでもスタンドから見守った大空さんは「大事な場面で打ってくれた。大声でチームを鼓舞していた。大きく成長した。それで満足」と笑顔だった。

 高校卒業後は兄が進んだ会社へ就職することを希望している。社会人チームで野球を続けるつもりだ。「いい高校野球生活だった。兄貴とまた一緒にやりたい」。多くの人に感謝を続けながら、新しい生活が始まる。(阿久津光正)

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