《白球の詩》努力の重み示した夏 太田東・小林大起三塁手
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
9回裏、1点目の本塁を踏みベンチ前でナインとタッチして喜ぶ太田東の小林=桐生

 「絶対、塁に出るぞ」。6点を追う九回裏に先頭で四球を選び、反撃ののろしを上げた。後続がつないで1点目の本塁を踏むと、さらに2点が入り応援スタンドの熱気は最高潮に達した。七回には初球を左中間へはじき返す二塁打と活躍。樹徳に昨年の雪辱は果たせなかったけれど、高校最後の夏は存分に野球を楽しんだ。

◎一球の重み 心と体に

 ひたすらに、昨夏の悪夢を振り払おうと走り続けた1年だった。

 一塁手で先発出場した3回戦。2―4で迎えた六回1死三塁の場面で、一ゴロが飛んだ。普段なら簡単にさばけるはずの打球は、差し出したミットの下を抜けて右翼の芝の上を転がった。5点目を献上。終盤に追い上げたが、その1点が最後まで重くのしかかった。

 「3年生の夏を終わらせてしまった」。試合後にベンチ裏で泣き崩れた。「お前のせいじゃない」。先輩たちは慰めてくれたが、涙は止まらなかった。父の誠さん(42)は、気落ちする息子に言った。「やっちゃったものはしょうがない。いつか樹徳と対戦した時、必ずリベンジできるようにしっかり練習しておきなさい」。帰宅直後からバットを振った。悔しさは簡単に拭えそうにないと分かっていたから「つらいけど、全てを受け止めて前へ進もう」と、一歩を踏み出した。

 一球の重みは誰よりも知っている。だから練習では常に夏本番でのプレーを想定し、打撃も守備も一球に集中した。冬場は肉体改造を進めた。練習がきつくて弱気になると、「あの時」を思い出して自分を奮い立たせた。昨秋以降は公式戦全試合でヒットを打ち、春には初本塁打も放つなど、副主将としてプレーでチームをけん引した。

 2番三塁で再び迎えた夏。初回の三ゴロを難なく処理すると、気持ちが落ち着いた。七回に放った二塁打は昨夏、好機で三振を奪われた堤凌平に一矢を報いる一打になった。今泉諒主将は「努力はうそをつかないって証明してくれた。あいつの存在は大きかった」と感謝し、阿蔵勝利監督(38)は「頑張ってきたことが、最後に実ってよかった」と、苦しみ続けたこの1年をねぎらった。

 「あの経験があったから野球に真剣に向き合えたし、成長することもできた」。悔しさしか残らなかった昨夏とは異なり、この夏はひとしきり泣いた後に晴れやかな笑顔が戻った。「頑張った姿を見せられて、先輩たちにも恩返しできたかな」

 苦い思いをした自分だからこそ、みんなに伝えられることがある。「転んだら、起き上がればいい。次に備えて、前へ進めばいい」。自分にもそう言い聞かせて、これからも歩んでいこうと思っている。負けっ放しじゃ終われない―。(藤井陸大)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
関連記事