《白球の詩》「厳しさ」問い続けた1年 大泉・長沢瑞樹主将
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9回表2死、飛球を捕球し笑顔を見せる大泉の長沢主将=上毛新聞敷島

 「時間がもったいないぞ。外で見てるやつ、キャッチボールしておけよ」。初戦前日の大泉高グラウンドに、主将・長沢瑞樹のひときわ大きい声が響いた。

◎「優しすぎる性格」 転換

 大泉は昨夏の群馬大会で、有力校の藤岡中央、市太田から勝ち星を挙げ、4回戦に進出、ベスト16入りした。快進撃をもう一度―。新チームは志高く始動した。しっかり者で1年生の頃からチームの中心にいた長沢は、主将のたすきを引き継いだ。「主将はあいつに」と全員一致だった。

 船出は難航した。優しい性格が災いした。部員が動かなければ、ピッチングマシンを自分で運んでしまう。ノックの練習中、「速く動けよ」と指示しても、口調は厳しいわけではない。ナインは甘え、雰囲気が緩み、練習準備さえ遅れることが増えた。「強く言って嫌われたくない」。そんな恐怖を心の奥底に抱えていた。

 松井宏和部長や武藤紗子マネジャー(3年)には、心の内を吐露していた。松井部長には「強く言われたからと、おまえを嫌うようなやつは仲間じゃない。嫌われることを恐れるな」。そう励まされた。

 投手の中村大希(同)は2年当時からバッテリーを組み、女房役の優しすぎる性格をよく知っている。代わりに厳しい言葉を仲間に向けることも多かった。そして「優しさは時に弱さになる」と知っていた。なれ合いを嫌い、長沢がピンチでマウンドに駆け寄り、優しい言葉をかけようとすると、突き放すこともあった。

 秋もベスト16。チームは冬場、主に打撃を磨いた。「昨夏より良い結果を」。だが春1回戦でつまずいた。「頑張った分、結果を出さないと」。チームの重圧となり、積極的に振りにいく打撃ができずに0―13の六回コールドで大敗した。「ショックだった。自分が厳しく言わなきゃ変われない」。長沢もチームも変わり始めた。

 迎えた夏初戦。九回裏1死一塁、長沢といつも居残りのティー打撃をしていた3番栗田光(2年)が「長沢さんの努力はチーム一だと知っている。何が何でもつなぎたかった」と二塁打を放ち、走者二、三塁。続く長沢は5球目、狙った外角の球を左翼線へ。犠牲フライになった。「最終打席を回してもらって、うれしかった。絶対に来るって、待っていた」

 試合は苦しい場面が多かった。満塁のピンチを招くと自らタイムを取り、中村に駆け寄った。「気楽に行こうぜ」。やっぱり優しい長沢だった。中村は「あれで冷静になれた。最後まで厳しくなりきれなかったけど、それが長沢。今日くらい大目にみても」。照れくさそうにほほ笑んだ。

 もっと強く言っておけば良かったと後悔もある。たくさん叱り、指導してくれた監督、部長、コーチにできれば勝利をプレゼントしたかった。他人に厳しくするとき、本当は本人が一番苦しいことが分かったから。悩み、考え続けたこの一年は、かけがえのない時間だった。(飯島礼)

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