高校野球 向かう先は 私立の全国Vが励み/公立は発想の転換を
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(左から)団野村さん、斎藤章児さん

 第100回記念の全国高校野球選手権大会が盛況のうちに幕を閉じた。平成最後の甲子園は私立の大阪桐蔭(北大阪)が史上初の2度目の春夏連覇を遂げ、秋田県勢103年ぶりの準優勝を果たした公立古豪の金足農業は人気が過熱した。選手層の厚い私立と限られた戦力の公立による決勝は都道府県大会の縮図といえ、節目の総括にふさわしい議論の種をまいた。

 今年は春夏甲子園でタイブレークが導入され、投手保護は一歩前進したが、投球制限など未着手の課題は残る。平成全体を振り返ると私立の台頭が目立つが、公立の新勢力も次々と登場した。高校野球の向かう先を、公立・私立が群雄割拠する群馬県内で、2人の識者にそれぞれの立場で聞いた。

《私立》勝利至上主義に陥るな…元農大二監督・斎藤章児さん

 元農大二監督の斎藤章児さん(78)は「強豪私立が地元の競技力向上を担ったのは事実。かつて甲子園勝敗数で低迷した群馬が、今は勝ち越して順位も上がった」と存在意義を指摘。桐生第一と前橋育英の全国制覇が、県内球児の大きな励みとなった歴史がある。

―100回大会をどう見たか。
 非常に面白い試合の連続だった。2回戦のタイブレークで済美(愛媛)が逆転サヨナラ満塁本塁打、準々決勝で金足農業(秋田)が逆転サヨナラ2点スクイズを決めた。ともに史上初の勝ち方ながら、今風の強打と往年のバント攻撃で異なり、高校野球の多様な歴史を示していた。

―高校野球は変わったか。
 金属バットの導入以降、競技を取り巻く環境は進化しているが、本質は変わっていないと感じる。かつて定番戦術だったバントを重視し、金足が決勝まで進んだのが好例だ。今は犠打より打撃を選ぶチームは多いが、大振りや甘いミートではパワーを生かせない。これからどう定着するかという段階だろう。

―金足は全国的に人気が沸騰した。
 判官びいきは甲子園の伝統でもある。1969年に夏の甲子園決勝が初の引き分け再試合となった時は、連投した三沢(青森)の太田幸司投手が人気を集めた。今夏の構図と似る。苦しい側にこそ「筋書きのないドラマ」を期待するからだ。

―大阪桐蔭の2度目の春夏連覇はどう捉える。
 次期チームの骨格を見据えた的確なスカウト、集まる選手たちの質と覚悟、1学年約20人の少数精鋭型で指導が行き届きやすいこともある。理想的な環境なのは間違いないが、だから勝てるほど甘くない。西谷浩一監督が指導の柱を持っているからだろう。

―柱とは。
 野球を教える時の理念や信念。私はそこに勝利への熱き執念を加えて「三念」と呼んだ。高校野球は教育の一環。投手と捕手が協力して盗塁を刺殺し、二遊間の連係で併殺を取る。共同作業の競技でマナーや礼儀は欠かせない。

 九回を守り抜くには地道な努力、献身的な姿勢が求められる。社会で通じる人間形成があってこそだ。学生野球憲章にあるように勝利至上主義だけでは、本当の強さは生まれない。

―寮生活に憧れる選手は少なくない。
 規則正しい生活で社会人教育を受けられ、家族的な雰囲気で強くなれる。食事を共にし、風呂で背中を流し合う。普段から「心のキャッチボール」ができるということ。指導者とも相互理解が進みやすい。1対1の気遣い、チーム全体への気配りは暮らしの中で育まれるものだ。

―私立、公立の優位性はあるか。
 正直、壁はなくなっている。金足のように1人のヒーローを軸に仲間が集まったチームがある。選手が練習メニューをつくり、ノーサインで盗塁することも珍しくない。自分で判断できる若者。後ろで支える大人。そう変わっていかなくてはならない。全ての選手と指導者にこの言葉を贈りたい。「君ならできる」。

《公立》就職につながる指導を…KDNスポーツジャパン社長・団野村さん

 指導者として甲子園出場経験のある豊田義夫氏を利根商業監督に招いた、KDNスポーツジャパン社長の団野村さん(61)は「選手層は言い訳にならない。最速125キロの投手で勝ち抜く工夫、チームづくりこそが公立の指導者に求められる」と発想転換を呼び掛ける。

―金足農業(秋田)や白山(三重)など公立が注目された。
 どんなチームも甲子園出場の機会は平等。状況が厳しくても、高い目標を掲げる大切さが分かる。金足は吉田輝星投手がほぼ1人で投げ、他のレギュラーも固定した。甲子園決勝まで進むことを想定していなかったように感じた。一戦必勝の先にある連戦に最初から備えていたら、また違った展開もあり得た。

―投手力の事情では。
 今いる選手でチームをつくることが監督の手腕。最速125キロでも制球と変化球を磨いて勝負できる。公立こそベンチ全員を戦力にする体制が必要。力がないと諦めるのではなく、個性を生かす工夫をしてほしい。都道府県大会や甲子園全体でどう戦っていくかを考えるならば、継投が根幹になる。

―連投は勝利を期待する周囲への配慮もある。
 登板判断は監督の責任で行う。外の声に迷うのではなく、守るのは選手。「投げられるか」と本人に聞けば、「はい」と答えるだろう。でも、それはグラウンドの中の虐待だ。

 1991年夏に準優勝した沖縄水産は、主戦の大野倫投手が右肘を故障した状態で投げた。甲子園が最後のマウンドとなり、野手に転向してプロ入りしたが長くは続けられなかった。どれだけの高校球児がチャンスを失ったか。

―かつて自身が指導した小中学生のクラブでは、自主的に投球制限をした。
 当時は他チームに「それでは試合にならない」と言われ、運営側にも聞き入れられなかった。それならば自分たちだけでやろうと。子どものけがを回避するのは大人の責任。中継ぎや代打、守備固めと役割を分担すれば、みんなで力を合わせて勝つことも明確になる。

―選手に配慮しながら、勝つ工夫はできるか。
 エラーを減らすことで対応できる。練習からプロセスを大事にし、ブルペンから複数球種を投げ分けるなど常に実戦を想定する。目的意識のない練習にいくら時間を費やしても効果は薄い。野球は試合の中でどこかに落とし穴があり、確実に防ぐマニュアルはない。イレギュラーへの警戒心と対応力を育むことが大切だ。

―今の時代に公立が求められることは。
 魅力ある指導者の招聘しょうへいもそうだが、「面白いことをしているな」と関心を持ってもらうことだろう。プロ入り選手を除けば野球の技術で社会に出ることは難しい。職業教育につながれば、将来への期待感で生徒も集まりやすい。

 例えば利根商業に、パソコン部が野球部のデータを分析して活動提言をできないかと提案した。他の運動部にも応用でき、学校の専門性もPRできる。部活動を学校の財産としてブランディングを進めなくてはならない。

 全国高校野球選手権大会 夏の甲子園は47都道府県の予選(北海道、東京は2地区)で優勝した49校が代表となるが、記念大会は出場枠が増える。第100回の今回は最多の56校が出場し、群馬県の前橋育英を含めて私立が48校と8割以上を占めた。

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