《前人未到を掲げて サンダーズ B1昇格》
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B2プレーオフ準決勝で越谷を破り、B1昇格を決めて喜ぶサンダーズの選手
群馬クレインサンダーズは小学校でもスクールを展開。チームの知名度アップに貢献する
「OTA ARENA」(仮称)のスタジアム構想を発表した群馬プロバスケットボールコミッションの吉田取締役(前列右)とBリーグの島田チェアマン。後方の画面は清水太田市長(右)と阿久沢社長

 バスケットボール男子Bリーグ2部(B2)の群馬クレインサンダーズはB2初制覇とB1昇格というシーズン当初からの目標を成し遂げ、2020~21年シーズンを終えた。今季のリーグ戦は、他のチームを寄せ付けず、Bリーグ記録となる33連勝を記録、シーズン最高勝率も達成するなど圧倒的な強さを誇った。来季はB1という新たなステージで、実力、経営規模ともに勝るレベルの高いチームと争うことになる。集客面はもちろん、財政的なハードルも高くなり、さらなる経営努力が必要となる。今季を振り返るとともに、B1昇格で直面する課題や今後の展望を探る。

(1)攻撃で圧勝 33連勝

 残り時間を示すボードが15秒を切ると、勝利を確信したようにサンダーズカラーの黄色に染まった会場から大きな拍手が湧き上がった。選手は試合のペースを落としながら、会場の拍手に応え、B1昇格の喜びをかみしめていた。

3度目の正直

 5月16日にヤマト市民体育館前橋で開かれたバスケットボール男子Bリーグ2部プレーオフ(PO)準決勝第2戦。サンダーズはレギュラーシーズン第2節で連敗した越谷を相手に厳しいディフェンスから速攻を仕掛け、得点を積み重ねて勝利した。

 試合後、就任5年目でB1昇格を果たした平岡富士貴ヘッドコーチ(HC)は会場を埋めたブースターに「今回は3度目の地区優勝で、まさに3度目の正直でB1にいくことができた」と感極まった表情で報告した。顔はくしゃくしゃになり、目は潤んでいた。会場全体が祝福ムードに包まれた。

実力派外国人

 今季のサンダーズは圧倒的な攻撃力を誇った。開幕前にはB1千葉の天皇杯3連覇(2017~19年)に貢献したPFマイケル・パーカーや、同じく千葉で活躍したSFトレイ・ジョーンズ、センター/PFジャスティン・キーナン、センターのブライアン・クウェリといった実力派の外国出身選手が加入。PG笠井康平、SG山崎稜、SG/SF上江田勇樹と今季の主力メンバーとして活躍した日本人選手も新たに移籍してきた。

 強力な補強を可能としているのは19年6月にサンダーズの運営会社を子会社化した大手不動産のオープンハウスの存在だ。オーナー企業として、戦力補強などのチーム運営に大きな力を持つ。

 サンダーズは18~19年シーズン、2年ぶりに地区優勝しPOに進出。準優勝に輝き、成績面ではB1昇格の条件を満たしたが、チームの財務状況が悪くB1ライセンスが交付されなかった過去がある。オープンハウスが運営に加わった19~20シーズンは財務状況が改善。B1ライセンスが交付されたが、新型コロナウイルスの影響でリーグが中断され、ここでも昇格は実現しなかった。

 こうした困難を乗り越えて迎えた今季、第2節に連敗するも、その後はBリーグ記録の33連勝を達成した。昇格を前に涙を飲んだ過去を振り払うようにその後も快進撃を続け、昇格への道筋がはっきりと見えた戦いを繰り広げた。


(2)変則日程も最高勝率 コロナ禍

 群馬クレインサンダーズにとって初の試合開催となる高崎アリーナで、上毛新聞社スペシャルマッチが予定されていた3月24日。会場周辺に長蛇の列をつくったブースター(ファン)に試合中止が告げられた。

 1部(B1)昇格に向けた快進撃に水を差したのは、昨年と同様に新型コロナウイルスだった。3月下旬に対戦した越谷で陽性者が判明。サンダーズの選手1人も陽性となり、チーム全員が濃厚接触者と判断され、4月4日の茨城戦まで6試合が中止・延期となった。

勝負強さ発揮

 2週間はチーム活動ができず、選手は個々に調整を続けた。活動再開後は1週間ほどチーム練習をした後、地区優勝を懸けてアウェーで福島戦に臨んだ。ブランクの影響もなく、SG/SF上江田勇樹、SG古牧昌也主将、SG野崎零也がドライブから速攻を決めて連勝。2年ぶり3度目の地区優勝を決めた。

 その後も勝負強さを発揮した。苦手の仙台に2敗したが、残る試合は全勝。シーズン52勝5敗の勝率9割1分2厘でリーグ最高勝率記録(9割)を更新し、B2の全体1位でプレーオフに進出した。プレーオフもワイルドカードの山形、東地区の難敵・越谷の挑戦を退け、負けなしでB1昇格の上位2チームに入った。

 勝負強さは試合の流れを変える選手がベンチに控えることから生まれた。今季の切り札は野崎。鋭いドライブからレイアップシュートを決め、ファウルを誘ってフリースローを沈め、準決勝の越谷戦で2試合とも2桁得点。「地区優勝を決める試合の勝利に貢献できた」と話した。

勝負強さ発揮

 ベンチから入るセンター/PFのジャスティン・キーナンもインサイド、アウトサイドからのシュートや激しいディフェンスで流れを変える。強固なセンター陣を誇る越谷戦でも攻守に高い能力を示した。

 地区優勝―B1昇格―B2優勝と目標を達成した選手を、平岡富士貴ヘッドコーチ(HC)は「有言実行で決めようと言い続けた結果」とたたえた。昨年から猛威を振るう新型コロナの影響を受けながらも無事にB1の舞台にたどり着いた。


(3)結束力高まり独走 大型補強


 「前人未到~It’s Show Time」
 昨年7月、群馬クレインサンダーズを運営する群馬プロバスケットボールコミッションの阿久沢毅社長は、山本一太知事とのオンライン対談でシーズン開幕に向けて決意を示すスローガンを発表した。

 スローガンはBリーグシーズン記録の54勝を上回る「55勝5敗」を目標とすることに加え、圧倒的な力でB2を制覇し、B1昇格を決めることを念頭に置かれたもの。今季に懸ける強い自信をうかがわせた。

チームの目標

 実際、チーム力は大幅に向上していた。2020~21年シーズン開幕直前にB1チームから8選手を大型補強。プレーオフ準優勝を果たした18~19年、東地区2位でプレーオフ進出を決めた19~20年の戦力を底上げした。PFマイケル・パーカーはチームの目標を知り、「個人を生かせれば達成できる」と確信、PG笠井康平も「達成したらと、わくわくする部分もあった」と振り返った。

 シーズンに入るとBリーグ記録の33連勝を成し遂げるなど東地区首位を独走。コロナ禍で試合数が減り、勝利数は52勝と目標の55勝には届かなかったが、最高勝率9割1分2厘を打ち立てた。

重圧に苦しむ

 新たに加入した選手が多く、チームの結束力が試されたが、能力の高い選手が溶け込むことで結果につながった。今季チームをまとめたSG古牧昌也主将は「新しい選手が来る時は声を掛けるようにした」と雰囲気づくりの工夫を明かした。

 勝利を重ねる中で、平岡富士貴HCと選手が重圧に苦しむこともあった。平岡HCは「重圧の中でミッションをクリアできてほっとしている。このストレスから解放されたらどんなにうれしいかと思い、取り組んできた」とシーズン中の苦労を打ち明けた。笠井も「1年通して負けてはいけない思いを抱えていた。こんな緊張感を持った1年はなかった」と振り返った。

 強豪チームがそろうB1では厳しい戦いが待っている。ただ、サンダーズはB1経験者も多く、優勝経験もあるパーカーは「B1のレベルは分かっている。練習環境やアウェーで過ごす環境など修正すべき点はある」と課題を受け止めつつ、来季のプレーを思い浮かべている。


(4)知名度アップ不可欠 財政的課題

 4月28日、Bリーグのオンライン理事会が開かれ、群馬クレインサンダーズの2年連続B1(1部)ライセンス交付が決まった。2年前にプレーオフで準優勝してB1昇格の条件を成績面で満たしながら、B1ライセンスが交付されずに昇格を逃した苦い経験があっただけに、クラブ関係者は胸をなで下ろした。

財務指標

 ただ、昇格条件を満たしたといっても、昇格後にスムーズに運営できるわけではない。B1ライセンスの財務基準に利益、純資産、売上高、資金繰り、損益見込みなどの指標がある。売上高は3億円が基準だが、B1所属クラブの平均営業収入は19-20年シーズンで6億2000万円。群馬の営業収入は3億3000万円でB1平均の半分程度にとどまっている。B1最少の島根の3億5000万円より少なく、営業面のてこ入れが不可欠だ。

 営業収入の柱となるスポンサー収入は、他クラブとの格差が特に大きい。入場料収入は群馬が8000万円とB1平均の1億円と2000万円程度の差にとどまっているが、スポンサー収入は群馬の1億8000万円に対し、B1平均は3億5000万円と2倍だ。

 昨年7月に就任した阿久沢毅社長は「(新本拠地の)近隣市町村へ働き掛けを徹底し、後援会組織を充実させるなどしてスポンサー収入を3倍に増やしたい」と話す。

スクール運営

 そのためにはチームの知名度を上げ、ファンを増やすことが重要だ。その呼び水となるのは子どもがバスケットボールを学ぶスクール運営。B1では知名度を上げるだけでなく、収入の柱として1億円以上の収入につなげるクラブもある。

 群馬は既に中学生年代のU15(15歳以下)チームを持つが、来年4月までに高校生年代のU18(18歳以下)を立ち上げる。これに合わせて数年かけ、300人程度が学べるスクールも整備する計画。子どもを通した地域への浸透が入場料収入やスポンサー獲得につながるとみている。昨季のスクール関連収入は1000万円程度だが、これも3倍程度に上積みする。

 育成部門を担当するU15の佐藤勇ヘッドコーチは「新拠点の太田市を中心にスクールを展開し、入場料収入やグッズ販売につなげたい」と展望する。


(5)広域集客 自治体、企業一体で

 バスケットボール男子Bリーグ1部(B1)昇格を懸けたB2プレーオフ準決勝直前の5月13日。群馬クレインサンダーズはオーナー会社のオープンハウス(東京)、来季から本拠地となる太田市と合同で会見を開き、2023年完成予定の新スタジアム構想を明らかにした。

 「OTA ARENA」(仮称)と紹介されたイメージ映像では、国内最大級のセンタービジョンやVIPスペースなど充実した設備が映し出された。B1基準を満たす5000人収容のメインアリーナは面積約1万1000平方メートル。総工費は78億5000万円で、このうち約40億円は企業版ふるさと納税での確保を目指すことも明らかにされた。

新規の獲得

B1定着と上位進出には集客力が課題となる。新規のブースター獲得に向けて、清水聖義市長は「太田市を中心とした広域に拡大する」と強調。対象とする商圏を太田市を軸に埼玉県熊谷市、栃木県の足利、佐野両市などの両毛地域に広げる構想を掲げる。

 参考としたのはJリーグの鹿島アントラーズの戦略だ。鹿島は人口10万人の茨城県鹿嶋市近郊を中心としながらも、自治体、企業が一体となって地域を盛り上げてきた。チームの強化で知名度を上げ、サポーターに東京など近郊からも足を運んでもらうことで、収益面での強化にもつなげている。

 太田市の人口は約22万人。Bリーグの開催試合はホーム約30試合で、年間計15万人に訪れてもらうためには毎試合5000人を集める必要がある。そのためには鹿島のように、近郊からの集客が不可欠だ。

満員は必須

 来シーズンは3000人規模の太田市運動公園市民体育館がホームスタジアムになる。B1開幕に向け、シーズンシートやスポンサー向けチケット引換券譲渡など営業は始まっている。ただ、コロナ下で上限1500人の集客となることについて、安田良平マーケティング統括は「開幕戦の満員は必須。チケットが手に入りづらい状況をつくり出すことで5000人の集客が見えてくる」と見据える。

 また、B1チームは北は北海道、南は沖縄と各地にあり、ブースターが駆け付けることも考えられる。阿久沢毅社長は「B1は栃木、千葉のチームもあり近郊の往来も増える。いかに群馬の試合に呼べるかがポイント」と分析する。Jリーグの人気チームを模範に取り組んだ集客策に成果が出るか。来季、新天地でサンダーズの新たな挑戦が始まる。(おわり)
 (新井正人が担当しました)

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