第5回上毛文学賞  詩 【入選】

日本人の原風景歌う 本田 巌さん(65歳) =前橋市小屋原町

本田 巌
昭和三十年代ごろの農村をイメージし、身近にあった情景を思い浮かべながら、馬と人間のふれあいを表現した。「人々の記憶から失われつつある、日本人の原風景ともいえるものを残しておきたかった」
実家は農業、高校生のころまで朝食前に家業を手伝った。耕運機の普及以前、牛馬は貴重な労働力となって農家を支えた。この詩に登場する「親爺(おやじ)」は、馬を制してむちを入れる一方、利根川の浅瀬で馬体を洗い、ねぎらいの言葉をかける。厳しさの中に優しさが垣間見え、馬もそれを理解しているかのようだ。
俳句のキャリアは約十年で、七年ほど前から写真も始めた。詩は昨年五月から、県立土屋文明記念文学館の学習会で指導を受けている。「作るようになって一年足らず。(入選は)申し訳ないような気もするが、これを励みに頑張りたい」
六年前に退職、農作業に励む。「どんど焼きや茅(ち)の輪くぐりなど伝統行事や祭りをきちんと書きとめ、写真にも残しておかなければ」。そんな思いを胸に刻み、新たな詩作に意欲を示している。
ほんだ・いわお 1942年、前橋市生まれ。ペンネームは赤城漢山。俳句、写真にも取り組んでいる。

第5回上毛文学賞  詩 【佳作】

亡父との思い出伝える   石原恵美子さん(67歳) =高崎市南町

石原 恵美子
受賞作は、三十年前に亡くなった父親の思い出を、平易な言葉で表現した。「急に倒れて入院した。看病していたとき、父の手を握ると指が動いた。戦争中、父は通信を担当していたので、その動きで何かを言いたかったのでしょう」
結局、何を伝えたかったのか聞くことはできないまま父親は死去。そのことが、ずっと気になっていた。昨年秋、父親を題材に詩を書こうという気持ちになったとき、自然にこの出来事から書き始めていたという。
詩作は子供のころから好きだったが、本格的に書くようになったのは、定年退職後。身の回りの出来事や季節の移り変わりが題材となる。「心から出てくる言葉、気持ちを素直に書いている。良く見せようなどというつもりはない。これからもこんな気持ちでいたい」
いしはら・えみこ 1941年、満州生まれ。60歳以降、本格的に詩作と川柳を始める。ペンネームは原美子。

第5回上毛文学賞  短歌 【入選】

美しさや感動素直に    門倉まさるさん(68歳) =高崎市岩鼻町

門倉 まさる
健康のため数年前から毎朝、自宅近くの群馬の森を散歩している。コースはおおよそ決まっているが、ある日、烏川の堤防を歩いてみた。「ちょうど太陽が昇る時間だった。朝日の美しさや感動を、そのまま素直に詠んだだけ」。それが受賞作だ。
短歌は高校生のころから親しんでいたが、本格的に始めたのは退職してから。中国のタクラマカン砂漠を訪れたとき、その広さに驚き、自然に短歌が浮かんできたことがきっかけだった。それ以来、日々の暮らしの中で見つけた楽しいこと、明るい話題を詠んでいる。
「短歌は一瞬を切り取って表現するもの。それに、文字数が限られているから、あれもこれも詰め込めない。だから余分なものは、どんどん削り捨てていく。そこが難しくもあるし、楽しいところでもある」と、短歌の魅力を語る。
童話をはじめ詩、小説とさまざまな分野にチャレンジしている。「どんな分野でも文字を通して、イメージを組み立てるという部分は共通。だから面白さは同じ」。文学への興味は尽きない。
かどくら・まさる 本名・門倉勝。1939年生まれ。群馬大学芸学部卒業後、高校で37年間、国語を教えた。

第5回上毛文学賞  短歌 【佳作】

写実的な詠草心掛け   真庭 義夫さん(71歳) =みなかみ町粟沢

真庭 義夫
退職後に趣味として短歌に取り組み始めて八年がたつ。「(上毛文学賞は)大きな目標の一つだった」と心から喜んでいる。
藤原ダムにほど近い集落に生まれ育ち、長年にわたって農林業に携わってきた。自然豊かな環境で暮らしてきたからこそ、自然の美しさや日常の情景をありのままに詠み、「空想ではなく写実的に短歌を作る」ことを心掛けている。
受賞作も子供たちの登校風景という日常を詠んだ歌。近くの小学校の前で目にしたほほ笑ましい光景だ。このように、浮かんだイメージはいつもメモを取るようにして創作に生かしている。
これから先、少しでも長く短歌に取り組むことが目標。「この地に住んでいるからこそ歌える作品を送り出したい」とさらなる飛躍を誓う。
まにわ・よしお 1936年、旧水上町生まれ。現在、水上短歌会、利根沼田短歌会の会員として創作を続けている。

第5回上毛文学賞  小説 【入選】

「豊かさ」へ思い込め    門倉まさるさん(68歳) =高崎市岩鼻町

門倉 まさる
「十代の終わりごろから童話を書いてきたが、小説はこれが二作目。難しかったし、苦しいこともあったけれど、童話とは違う楽しさを見つけた」
昨年も応募したが規定枚数に足りずに入賞を逃した。その直後から「次回こそ」と心に決め、テーマや題材、ストーリーを温め始めた。十年ほど前に旅行したことのある中南米の国々のことを思い出し、歴史的な事件を題材にすることにした。
受賞作は栄華を誇ったインカ帝国が、スペイン人に滅ぼされる場面を題材にした物語。経済力をうまく使うことの難しさや心の豊かさの大切さなどを、三人の男の生き方を通して描いた。「豊かな経済力を独り占めするのではなく、みんなが豊かになることに使えないのか」。こんな思いを込めたという。
「書き始めると主人公が勝手に動き始めてしまって。結末をまとめるのに苦労した」と振り返る。だが、想像を膨らませ、その世界の中で自由に遊ぶ楽しさを体験できた。「こういうところが、小説を書く魅力なのかもしれない。また書いてみたい」
かどくら・まさる 本名・門倉勝。1939年生まれ。群馬大学芸学部卒業後、高校で37年間、国語を教えた。

第5回上毛文学賞  小説 【佳作】

女子高生の感情を描く    中村 羽月さん(23歳) =藤岡市中島

中村 羽月
受賞作は、結婚が決まった姉を持つ女子高校生が主人公。姉の結婚相手に次第に、ひかれていく複雑な感情を描いた。「人に伝えたいのだけれど、素直に伝えられない思いは誰にもある。そんな思いを書きたかった」
高校時代から文章を書くことが好きで、日記や散文は日常的に書いていたが、小説は初めて。「想定した結末に向けて、どうストーリーを組み立てるのか。何度か書き直した」。だが、作品に納得はしていない。「主人公と姉との関係などは、もっと書き込んでも良かった」
昨年十二月に着手し、一カ月ほどかけて仕上げた。「小説を書くことは難しかったけれど、楽しかった」と振り返る。「他にも書いてみたいテーマはある。気持ちが乗ってきたら、また挑戦したい」
なかむら・はづき 1984年、高崎市生まれ。前橋清陵高卒業。高校卒業後から主に散文などを書いている。

第5回上毛文学賞  俳句 【入選】

しめ縄作りに自ら重ね    折田 秀一さん(80歳) =中之条町折田

折田 秀一
毎年、年の瀬に来る年への願いを込めて自分で育てた稲わらでしめ縄を編む。時代は移っても、昔ながらのしめ縄を飾って正月を迎える。教員を退職して二十年間、ふるさとから出ることの少ない生活を続ける。受賞作は、そんな自分を変わらぬ風習になぞらえた。
「九年前に佳作をいただいてから、入選が目標だった。上毛俳壇への初投句以来、十三年間で五百回以上紙面に掲載されたことが励みになり、続けてくることができた」
高校の英語教諭だったころ、「英語を通して日本語を見たとき、日本文学の素晴らしさにあらためて気付かされた」。当時勤めていた学校長が俳句に精通、その勧めで一九八四年、松本夜詩夫氏が主宰する「ぬかるみ俳句会」に入会。松本氏の「俳句は持続の文学である」という教えを心に留め、精進してきた。
「人にはそれぞれ与えられた時間があると思う。量はどうすることができなくても、俳句を通じて日々を見つめることで、一日の質を高めていきたい」。これからも、心の中にわいてくる言葉をつづり続けていく。
おりた・ひでいち 1928年、中之条町生まれ。群馬師範学校卒。高校で英語教諭、嬬恋高校長など歴任。

第5回上毛文学賞  俳句 【佳作】

義母の優しさ懐かしむ    工藤 葉子さん(75歳) =高崎市金井渕町

工藤 葉子
毎年、年末に大掃除やおせち料理の用意をしていると、二十年近く前に亡くなった義母のことを思い出す。「実家とは風習や料理方法がいろいろ変わって戸惑った。特にお雑煮はニンジンやダイコン、ゴボウなどがたくさん入るので驚いたが、義母は丁寧に教えてくれた。近所でも評判の優しさだった」。義母の優しさを懐かしむ気持ちが、受賞作を生んだ。
俳句に支えられて人生を歩んできた。二つの難病を患った夫は二十二年の闘病の末、昨年秋に亡くなった。「梅寒し 百句に達す 看取(みと)りの句」が、長い看護の悲しみを語る。
「俳句が悲しみやつらさの慰めになった。この先もまだ夫の句は続くだろうが、その先の俳句の世界を開くのが今の私の課題」。自分自身を勇気づけるように語った。
くどう・ようこ 1932年安中市松井田町生まれ。75年に「麻苧」に入会。故清水寥人氏、関口ふさの氏に師事。

第5回上毛文学賞  川柳 【入選】

入院経験を踏まえ表現    中嶋 勝美さん(72歳) =高崎市片岡町

中嶋 勝美
一九九八年、飛び入り参加した上州時事川柳クラブ総会で、初めて詠んだ一句がいきなり佳作に入選した。それから川柳の道を歩んで十年。我流を貫き、一日に十句、多い時で五十句は作る。「ぱっとひらめく瞬間がある」という。
冒頭の句は、昨年春に入院した際、同室の患者に見舞客が来るのを見て「自分が見舞いする側だったらどうするだろう」と情景を思い浮かべた。昨年十一月の週間賞に輝き、「選ばれるならこの句だと思っていた」と自信をのぞかせる。
一九五五年から十年余り、航空自衛隊に入隊。当時の先輩に本県出身者がおり、八年ほど前、新聞に掲載された句と名前を見て連絡をくれた。川柳が結んでくれた縁だった。
朝起きてから寝るまで“川柳漬け”の日々を送る。採用されなかった句は、推敲(すいこう)して別の選者あてに投稿する。「自分自身が感じたものを表現し、読んだ人がどう解釈するかが楽しみ」、だからやめられない。現在は詩や作詞にも挑戦し、活躍の範囲を広げている。
なかしま・かつみ 1935年、広島県生まれ。91年に高崎市に移住。現在、上州時事川柳クラブ副会長。

第5回上毛文学賞  川柳 【佳作】

収穫の喜び、寂しさ詠む    小野 おのこさん(72歳) =富岡市下高尾

小野 おのこ
「古希の手習い」で始めた川柳。始めてすぐに投稿した作品が掲載された。以来、日常生活の中で思いついた句を毎日投稿。「まさか二年でこんな賞を」と驚いている。
昨年九月、稲を刈る老夫婦の姿に句が浮かんだ。今、高齢化や跡継ぎ問題など小規模農家を取り巻く環境は厳しくなるばかり。仲むつまじく稲を刈る姿からは、そんな苦労は少しも感じられず、昔から続けてきた作業からは収穫の喜びが伝わってきた。行く末は厳しいのに、田畑を荒らしたくない一心で農業を続ける寂しさを込めた。
「後で読み返すと、あれもこれも入れようとこねくり回していることに気付く。最近になって、簡単な言葉ですっと伝えるのが難しいということに気付いた」。体が丈夫な限り、野菜とともに川柳も作り続けていく。
おの・おのこ 本名・黒沢映一。1936年、富岡市生まれ。富岡高卒。農業。70歳で川柳を始める。